2014年10月27日

ソファーと羽毛と驚きと


全長2,5mという巨大なソファーを張り替えました。


イタリアはB&Bというメーカーが10年程前に発売していたソファー、との事。
いまはもう絶版になり製造していないらしいのですが、愛着を持って使用しているので
張替えができないか、というご相談でした。

最初相談に工房へいらした時はお客さんのお持ちしたカタログを見て、軽自動車並みのその値段に驚き
実物を拝見したときはその大きさに驚きました。

なんとかご自宅のマンションから搬出を済ませ、工房で裂地をはがし始めたのですが
次はそのソファーのあまりにも高度に洗練された企画・技術に驚きました。
普通、このようなソファーを見た時、自分たちのような特注ものをつくっている人間は
木部の構造はどうなってんだろ、と思いますが、このソファーは木部がまったく無く、
硬質ゴムの細いフレームに後はすべて発泡ウレタンの固まりで出来ていたのです。

幸い発泡ウレタンはヘタリがなく、チップゴムをすこし補充してベースを作れたのですが
もしも発泡ウレタンがへたっていたら全く手の出しようがありませんでした。
このような構造のソファーは大メーカーが膨大な時間と人間、そしてお金をかけ企画をし、大掛かりな生産設備を
製造し、そこからオートメーション的にソファー生産をするものなのです。

ま、まさか、そんなものがこの農家の納屋跡 工房へ来るなんて。と思いながら布地のパターンの型を取り始めましたが
デザインもまた高度で複雑なものでした。
たとえば、背中が角度を変えながらねじれて座面につながり、その座面も傾斜の角度と座の大きさが変化している、というものです。


これはゼロから作れ、と云われても・・・。などと思いながら張替えを進めたのですが、
今回は普段あまり採用する事のない羽毛のクッションを使用してみました。
ふかふか。

コストはグンと上がりますが、ウレタンゴムのみのクッションよりも「バフッと」した座り心地になります。
そして羽毛の下は固めのウレタンクッションを入れ、体をしっかりと支えてくれるようにしました。

量産メーカーのソファー製作の仕方、普段あまり使うことのない材料へのアプローチなど
勉強になることが非常に多い仕事でした。
ただ、まだ学習していないことは、いまだに張り替え前のソファーの写真を撮り忘れ続けることでしょうか。




2014年10月11日

あれこれ考える



椅子をデザインしています。

世界には様々な椅子があり、私たちもそれらを参考にしたり反面教師にしたりもして椅子を考えます。

時代や国ごとにいろんなデザイナーがいますが、やはり椅子デザインで一番著名なのは
この人、ハンス・J・ウェグナー。



デンマーク出身のこの人、90年以上の生涯でデザインした椅子の数は500脚はくだらない、と云われています。
自分も椅子を考えるにあたり、彼の様々な椅子デザインを、文献を紐解くように図面を眺めたりしていました。

するとある時、ウェグナーの指向の変化という面白いことに気がつきました。

彼の若い頃の椅子というのは、もちろん実利面も考えてありますが、そのような事の他に
人の目を引くようなデザイン、華のある形の椅子が比較的多い事に気がつきました。

それがだんだんと後期、晩年に近づくにつれて「製造コスト」「座り心地」「耐久性」といった実用的な面が
より椅子デザインでのウェイトを占めていったような印象を受けたのです。
それはまるで面識のない、このデザイナーの生涯を伝記映画か何かでなぞっているような気がしました。

人が変われば椅子も変わる。
当たり前の話ですが、ウェグナーのような巨匠でもやはりそれは当てはまるのだ。
そしてそれぞれの時期のデザインを見て、ウェグナーがその時何を考えて図面を引いていたのか。
そんなことを考えながら彼のデザインした椅子を眺めてみるのも楽しいものだな。と思いました。







さあ、遠慮せずに